書籍「みんなではじめるデザイン批評」を読んだ

しまださんのブログで紹介されているのを見て、ちょうど最近の自分の興味の範囲でもあったので電子版を買って読んでみました。

みんなではじめるデザイン批評

みんなではじめるデザイン批評

  • 作者: アーロン・イリザリー(Aaron Irizarry);アダム・コナー(Adam Connor)
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2016/07/26
  • メディア: Kindle
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業務プロセスにコードレビューが組み込まれていて、日常的にお互いの成果物をレビューしながら過ごしている身としては、読んだことで「新しい知見を得た」というよりは、ふだん自分たちがやっていることを立ち止まって整理する機会となった、という感じ。そんな中でも「なるほど〜」と思った箇所は読みながらハイライトしておいたので、それを見返しながらメモ書きしておく。

  • 創造的思考と分析的思考を同時に行うのはむつかしい、脳はそういうふうにできていない、そのときそのときの自分に必要なのはどっちなのかを見極めていい感じにスイッチしてやることが大事
  • 文化変容 (長い時間をともに過ごすとお互いの話し方が似てくる、同じことばのフレーズやものの名前を使うようになる)
  • 「批評は単なるデザインスキルではなく、ライフスキルだ」という筆者たちの主張
  • フィードバックには、反応、指示、そして批評の3つのタイプがある
  • 「よい批評は問題解決をしない」
  • 役に立たないフィードバックの特徴
    • 個人的な目標の影響を受けている
    • タイミングが悪い
    • 説明が足りない
    • 好みに基づいている
  • 批評の目的は全員を納得させることではない

映画「オデッセイ」を観た

奥さんといっしょに「なんか観るか」というテンションになり「そういや理系ホイホイと評判だったよね〜」と軽いノリで手に取りました。火星の人。ストーリーラインが素直にわかりやすくておもしろかったです。

イモ好きの自分としては、やっぱりイモを育てるシーンがよかったです。

あとは、シン・ゴジラを観た(しかも2回)テンションをひきずっているからかもしれませんが、NASA のお偉いさんたちの意思決定のシーンをじっくり見てしまった。それぞれの立場で「大事にしなきゃいけないこと」が明確にあって、それらを正当にぶつけあう姿はとてもいいですねぇ。クルーたちのことを最後まで思い続けていたおじさん、あなたかっこよかったですよ。

極限状況下においても主人公がひたすらポジティブなので、観る側としてはちゃんと応援したくなれて、観やすい映画だと思います。むつかしいことを考えずに楽しめてよかった。

書籍「さよなら、インタフェース」を読んだ

楽しく読みました。

さよなら、インタフェース ?脱「画面」の思考法

さよなら、インタフェース ?脱「画面」の思考法

試しにサンプル版をダウンロードして読んでもらったらわかると思うんだけど、いい意味で雑で、雑談っぽい感じの文章で持論が展開されていっておもしろい。ぼくにとってはポジティブに作用した。訳者さんは「訳者泣かせ」と言っていた。合わない人には合わない、クセの強さはあるだろうけれど、言っている内容はおもしろいので興味があったらサンプルを、ぜひ。

著者の Golden Krishna は、なにかとアプリをつくりたがり、なにかと画面をデザインしたがる現代社会に警鐘を鳴らしている。なんでもかんでも画面をつくりすぎ、必要のない画面をつくりすぎである、と。

「安易に画面をつくろうとするな、真面目にやれ、人々の問題を解決しろ」

豊富な事例を持ち出してきては、繰り返しそんなことを告げている。

「寝る前に明るい画面を見ちゃうと脳が活性化して寝付けなくなる」的なことが書いてあるページを Kindle で読んでいる途中で寝落ちしてしまったり、自宅でほぼ全裸で踏み台昇降運動しながら読んでいるときに「キミの着てるその服、なかなかいいね」と書いてあるページに差し掛かってしまったりと、ぼくとこの本はなかなか噛み合わなくて笑ってしまったけれど、内容にはおおいに共感した。

インターフェイス (ぼくがカタカナ表記するときは、いつもこう書く。書籍のタイトルと表記が異なっているのは知っているけれど、それでもぼくはこう書きたいのだ) なんて、なくてもいいんだったらないに越したことはない。チャットボットと暮らす人類の未来に自分は何を期待するのか、あるいは何を期待しないのかというエントリの一部にも、そういったことを書いた。ボットに命令を与えるインターフェイスとしてチャットを使いたいんじゃない、ぼくたち人間がいつものようにチャットをしていたらボットがいろいろと気を利かせてくれる、そんな未来を期待しているのだ、と書いた。これは Golden Krishna の考えにかなり近いことを言っていると思う。

ノー・インターフェイスを体現するに当たっては、各種のセンサーデバイスが大活躍してくれることだろう。そういった意味で、近年の IoT 的な流れは歓迎したいものだ。自宅のリビングに種々のセンサーを仕掛けて、そこから読み取れる情報をもとに「いい感じに」よろしくやってくれるシステムは、今後どんどん登場してくれることだろう。

スマートフォンアプリは UI が肝心」なんてことはよく聴こえてくるけれど、この本を読み終わった今、インストールしておくだけで勝手にバリューを出してくれるような、そんなアプリをつくってみたい気持ちになっている。現代のアプリケーション開発者に、よい視点を与えてくれる書籍だと思う。読めてよかった。

映画「シン・ゴジラ」を観てきた

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映画『シン・ゴジラ』公式サイト

観に行こうと思った動機はけっこう軽くて、去年の9月に自宅近くで撮影が行われていたからという感じ。

よっしゃ、蒲田の壊されっぷりを確認しにいこ!くらいの軽い気持ちで観に行ってみたら、だいぶおもしろい映画だったので「軽い気持ちで観にきてすみませんでした…」という感情になった。よい映画でした!

映画の中身についてはあまり情報が開示されていないようなので、ぼくもネタバレしないように感想を書きたい。

ぼくの率直な感想は「東京で働いている人としてこの映画を観ることができてよかった」です。北海道に住んでいた頃だったら、東京の街が破壊されていく様子を見てもそこまで感情移入できなかっただろうな、と思う。今の自分にとっては、東京の街があっという間に壊れていく映像、ちゃんと悲しかったし、怖かった。自分、東京の電車に愛着があるんだな、って思ったよ。

スタッフロールを見て「庵野さん、いろいろやりすぎ」と思って笑った。細部にまで愛を込めてつくったんだと思う。おもしろい映画だったので、なんとなく気になっているくらいの人でも観に行ってみるとよさそう。

書籍「ピクサー流 創造するちから」を読んだ

ぜんぶ読んだ。おもしろかったです。

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

原著は「Creativity, Inc.」というタイトルなんですね。表紙もバズでかっこいい。邦訳版はどうして黄緑の表紙になったんじゃろな…?

Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

「うおー」と興奮しちゃう場面がたくさんあって、読み終わる頃にはハイライトが106ヶ所にも及んだ。ほぼ煩悩くらいある。

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前半の Ed Catmull の自伝っぽいところはちょっと退屈になった瞬間もあって、「Steve Jobs っていうやばいやつがいてさ〜」みたいなところは読み飛ばしそうにもなったのだけれど、終盤の Steve Jobs への感謝の手紙っぽい章を読んだらうまく気持ちも回収されたので結果的にはよかった。あと、Ed Catmull の大学時代の同年代の友人たちの面子がすごすぎてビビる。この本から何かを学んで取り入れたいところだけれど、著者が身を置いていた環境があまりにもすごすぎると「自分とは違うな…」と思ってしまうね。いや、最初から同じだと思っていたわけではないんだけどさ。

Pixar での映画づくりのプロセス、ソフトウェア開発の現場にも活かせそうな知見が満載でおもしろい。さらに、この本の主題である「Pixar という組織について」の話は金言に満ちていると思う。特に気に入ったやつを自分用に雑にメモしておく。

解決しようとしている問題を樫の木だとすると、その周囲に落ちたドングリから発芽した、その他諸々の問題がある。こうした若木は、樫の木を切り倒した後にも残る。

問題が飛散しちゃうお話、思わずうなずいてしまう。

デミングのアプローチも、トヨタのアプローチも、製品の製造に最も関わっている人々にその品質の責任と責任感を与えていた。作業者は、同じ作業をただ繰り返すのではなく、変更を提案したり、問題点を指摘したり、そして私にはこれが何より重要だと思われたのだが、壊れた箇所を直す役に立ったときに誇りを感じることができた。それが継続的な改善につながり、欠陥を洗い出し、品質を向上させた。言い換えれば、日本の組み立てラインは、作業者の積極的な関与が最終製品を強化する場になった。そしてそれがやがて世界中のものづくりを変えることとなる。

現場の一員として、グッとくる。

よいことが悪いことを隠していたのだ。

これもドキッとするな〜。一見うまくいっているときの不安。

昔、私があれほど科学に魅了されたのは、理解の追究のためだった。人と人との相互作用は、相対性理論やヒモ理論よりもはるかに複雑だが、それだからこそ面白くもあり重要でもある。こうだろうと思ったことがしょっちゅう覆された。映画をつくり続ける中で、私がそれまでピクサーが成功してきた理由だと思っていたことの中に、後で勘違いだとわかったことがいくつかあったが、まちがいようのないことが一つあった。それは、持続する創造的な企業文化を築く方法を見つけること──率直さ、卓越さ、コミュニケーション、独自性、自己評価といったものが重要だと口先で言うのではなく、それがどれほど不快な思いを伴っても、それを有言実行すること──は、片手間ではできない。日々努力のいるフルタイムの仕事だ。そしてそれを私はやりたいと思った。

トップに立つ人がこれを言い切れるのは本当にすごいと思う。スタッフたちも誇らしいことだろう。

アーティストには「遊び」を、監督には権限を与え、社員の問題解決能力を信頼する会社である。

たった1文だけど、いろんなエッセンスを感じる。

この教訓は重要だから繰り返そう。アイデアをきちんとかたちにするには、第一にいいチームを用意する必要がある、優秀な人材が必要だと言うのは簡単だし、実際に必要なのだが、本当に重要なのはそうした人同士の相互作用だ。どんなに頭のいい人たちでも相性が悪ければ無能なチームになる。したがって、チームを構成する個人の才能ではなく、チームとしてのパフォーマンスに注目したほうがいい。メンバーが互いを補完し合うのがよいチームだ。当たり前のように聞こえるかもしれないが、私の経験から言って、けっして当たり前ではない、重要な原則がある。いいアイデアよりも、適切な人材と適切な化学反応を得ることのほうが重要なのだ。

大事なのは人であり、チームである、というお話。

効率は目標の一つだが、品質は究極の目標であると社員に言ったならば、その本気度を示すことが必要だ。

日々の会話においても「効率」ばかりが連呼されているときって、ドキドキするよね。

では、マネジャーはどうしたら自分のグループ、部署、会社に率直な意見交換をさせることができるだろうか。私は、率直さが価値のあることだとはっきりと伝わるような仕組みを敷いて制度化しようとしている。この章では、ピクサーのそうした仕組みの一つである「ブレイントラスト」の働きについて説明したい。

ブレイントラストはこの本の中で何度も語られる重要なポイントのひとつ。後にこれをディズニーの方にも定着させようと奮闘していくお話もおもしろかった。

率直な会話、活発な議論、笑い、愛情。

うむ!

リスク回避も度を過ぎると、企業の変革を止め、新しいアイデアの拒絶につながる。それは見当違いのはじまりだ。企業が落ち目になるのはほとんどそのためであって、限界に挑戦したり、リスクを負ったり、失敗を恐れなかったからではない。 (中略) 失敗する可能性のあることに取り組むのが、本当に創造的な企業なのだ。

うむうむ。

納期を守ることと、部下を育てるという曖昧な義務のどちらかを選ばなければならないとしたら、必ず納期を選ぶだろう。

この続きの部分を読みながら、ブチャラティのことを考えていた。

つまり、大きな組織では一貫性はメリットがあるが、大きな全体の中の小さなグループは、自らを差別化し、独自のルール(そのルールが機能している限り)に従って運営できるようにすべきだと私は固く信じている。

ある程度以上の規模になった組織の分割統治について。なるほど。

ノーツ・デーの何週間も前から社員たちは、仕事のフローを改善し、前向きな変革を実現する方法について、それまでになく具体的に話し合い始めた。社員から考え方のヒントを求められたトムは、この架空の台詞を皆に与えていた。 「時は二〇一七年。今年の映画は二本とも一万八五〇〇人週をはるかに下回る時間で完成できた。どのような革新によってその目標を達成できたのだろうか。具体的に、どんなふうにやり方を変えたのだろうか」

このノーツ・デーというやつ、この書籍の中でいちばん興奮しながら読んだ。スタッフ全員でよりよい在り方について考える日。1,200人ほどのスタッフの気持ちを同じ方向に向けて全力で取り組むの、すごすぎると思った。これをうまくやれるんだから、そりゃあめちゃ強いよなぁという印象。ノーツ・デーやばそう。

プロセスと目標を混同してはならない。プロセスをよりよく、より簡単に、より効率的にする努力は不可欠で、継続しなければならないが、それは目標ではない。すばらしい商品をつくることこそが目標である。

はい、がんばります。

また、この本に書かれている考え方は、四五年という年月をかけて発展してきたもので、その間に数えきれない人々の参与があった。この本は、歴史の本ではない。自分の考えを説明する手段として年代順の記述をしているが、一部の人々──とくに技術的な仕事をしている人々──は、やっていることが複雑でわかりにくいため、本書にあまり登場していない。

Ed Catmull のやっていく気持ちが伝わってきて、たいへん楽しい内容だった。がんばってこ↑↑